日本のエネルギー自立への道
桐生 悠一
[黒潮発電資料3]

特許第5656155号 多胴船型潮流発電施設



1.概 要


(1)要 約 書

【課題】潮流発電に関しては、最適単機容量の観点から導かれる最適設計の指針がまだ確立しておらず、また、発電ユニットを多数台利用する場合のメンテナビリティの高い技術について提示されることが少なかった。
【解決手段】本発明になる多胴船型潮流発電施設は、本体を陸上で建設し、海上で発電ユニットを点検・補修できる構造を有する双胴船を含む多胴船形式の浮体をプラットフォームとして用い、規格化された単機容量が小さい発電ユニットを大量に幾何学的に密集させて構成した発電パネルを海中に懸垂して作動させるものである。また、海底に設けた一ヶ所の基礎より発する2本の係留索により係留され、 船体における係留位置を選ぶことにより発電負荷の反作用による船体のピッチングと、水平面内でのヨーイングを極力抑制することができる幾何学的構造を提供する。現在の造船技術やプラント建設技術の集積として潮流発電が実現可能となり、小規模出力の潮流発電実証船や、中規模出力の商用潮流発電施設として好適である。


(2)発明の効果

本発明は潮流発電においては少数の大型タービン発電機を配置するのではなく、多数の小型タービン 発電機を発電パネルに集積した状態で配置する方式が経済性に優れていることを示し、そのような発 電パネルを装備した多胴船型潮流発電施設により、現在活用可能な産業技術の組み合わせで小規模出 力から中規模出力をカバーできる潮流発電に必要な新規技術を提供する。


(3)産業上の利用可能性

例えば流速 2.5m/s の潮流の場合の有効深さ 100m、幅 50m の発電パネルの出力は約 10 万 kW とな り、係留索の海底からの角度 30 度の場合の発電負荷による垂直加重は約 6000 トン、それに自重等を 加えて双胴船としての総トン数は 5 万トン級程度で安定運転できると見積もられる。巨大な投資を要 する水力発電所よりも小回りが利く自然エネルギー源であり、我々が現在利用可能な技術と機材で、 早期に実現可能な潮流発電を提供できる。



2.図面による説明


(1)シングル発電パネル形式の係留点7の位置

図 1 は船体が双胴船の場合を正面から見た図面である。海底基礎から発する係留索 6 は船体 10 の左右の係留点 7 でこの係留発電船を係留している。船体の浮力中心点から 1 枚の発電パネル1を懸垂する場合は、図 2のシングルパネル形式では船首を下げるトルクが回転軸構造体 9 に加えられる。それを打ち消すために係留点7が図 2 の位置に設けられている。
双胴船とパネルの正面図
図1.双胴船とパネルの正面図
シングルパネル形式の係留法
図2.シングルパネル形式の係留法





















(2)ダブル発電パネル形式の係留点7の位置

図 3 は発電パネルが船首と船尾の 2 ヶ所に設けられた形式の係留型発電船である。
この場合は前部発電パネルは船体の中央部を持ち上げるトルクを発生させるが、後部発電パネルは船体の中央部を押し下げるトルクを発生させるので、互いに打ち消し合う。このため、係留点 7 は浮力中心でもある中央部に設けられる。
ダブルパネル形式の係留法
図3.ダブルパネル形式の係留法



(3)係留索6が2本であり、二等辺三角形をなすこと

凧と凧糸との関係と相似である。この幾何学的構成は、発電パネルの後方に必然的に発生する巨大カルマン渦の反動力を受けて、船体に大きなヨーイング力(水平面内の首振り運動)が加わる場合の復元 力を発生させる。





3.コメント


(1)潮流に逆らって船体に巨大な発電パネルを懸垂・固定するのだから、ピッチング力とヨーイング力が非常に大きいとの「課題」には気付いたが、「解決の手段」に関しては手探り状態から始まった。
(2)浮体構造は規格生産に向いたメガフロート構造からスタートした。途中でボックス状の浮体では潮流 から無意味な抗力を受けるとの反省があり、抗力係数が小さい双胴船や三胴船を含む多胴船に考えを 切り替えている。最終の形に落ち着くまでの試行錯誤に長時間を要している。
(3)発想の初期段階では特許電子図書館もネット検索も一切せず、特許願を書く直前に先行発明を調査す るのが筆者の遣り方である。下手に他人の発想に触れると、無意識のうちに発想の自由度が制約され てしまうからである。今回の出願前調査で「黒潮発電資料1」の T 計画、N 計画等を見つけて安堵し た。見事に風力発電の海中版であり、発想が在来技術に囚われてその範囲から抜け出していない。 台風が来ない海中だからこそ可能となるコンバージョン・ダイバージョンノズルも L2 乗 3 乗則も適 用していない。海底まで送電線を持って行っており、発電ファームの海底配電・統合網は実現可能か、 メンテはどうするのか、黒潮の流路が変動したらどうなるのか、このままこの企画を進めたら先はど うなるのか、非常に心配になった。一日も早く軌道修正されることを望む。


出願 2013/12/16、特許権取得 2014/12/5
2015/3/20  桐生悠一